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【日本人職員に聞く】東日本大震災を振り返って―母国の危機に世界中から緊急支援のプロフェッショナルが集結。

, WFP日本_レポート

2011年3月11日東日本大震災から10年。東日本大震災では国連随一の輸送集団であるWFPはその強みを生かして被災地の支援にあたりました。世界各国で飢餓と闘う日本人職員も母国の危機に世界中から緊急支援のプロフェッショナルが集結。当時日本でのオペレーションの調整、ロジスティクスや物流を担当した石井理江さんに当時の経験について聞きました。

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Photo:WFP/Rie Ishii

当時、私はアフリカのチャドでの任務中で同僚が日本で大変なことがおこったと教えてくれ、慌てて実家(東京)に電話をして東日本大震災を知りました。すぐにでも何かしたいという思いはありましたが、災害が起こった時、初動(72時間)はやはり医療関係者、大きな混乱の中です。空港と現地へのアクセス状況がわからない状態で動くよりも、もしWFPの支援が必要となり、自分にできることがはっきりわかってから動こうと考えました。その後、WFPの日本への支援が開始されることになり、その活動に参加するために、日本に出発しました。

WFPは物資輸送の経験を買われ、3月16日に日本国内で緊急支援活動を開始し、物資輸送の分野を中心とする支援を実施しました。

WFPの日本での活動の概要としては以下になります。

1. 簡易倉庫(Mobile Storage Unit)の設置

2. 外務省と世界各国からの支援物資の現地への輸送の調整

3. 現地のボランティア団体へ支援

10人以上のプログラム、ロジスティクス、財務、調達等の専門家がそれぞれの赴任地から帰国し、今回の震災対応支援にあたりました。私は主に現地に行ったスタッフ、また本部や地域事務所との調整など東京からのサポートを担当していました。

当時は、日本全国、また世界各国からの支援物資が送られてきていました。しかし、それを現地のニーズに合わせて送るスペースがなかったり、また設備のある保管場所は避難場所などに優先的に使われているため、緊急援助の最初の段階では多いPush型の支援※(現地での混乱・ニーズの変化・配布計画のめどが立ちづらい)などでだぶついた支援物資の保管場所がないなどの問題がありました。

当時現地にいた職員からの話では支援物資を各避難所に配布をするにしても公平性、透明性などの判断が難しいとのことでした。。例えば電子レンジ一つにしてもオーブン機能がついている・いないなどの違う性能を持ったものの配布は公平性を期すためにできないなどの問題がありました。

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Photo: WFP

そんな緊急時の対応のために、国連WFPが運営する国連人道支援物資備蓄庫(UNHRD)という、人道支援機関のために調達した緊急援助物資を保管し、迅速に輸送するグローバルネットワークが世界6か所(パナマ、ドバイ、イタリア、スペイン、マレーシア、ガーナ)にあります。そこから緊急時に使う大型テント45張・プレハブ事務所36棟を日本に送り、現地にいる職員と調整をし、日本の通関・運送業者さんにお願いして現地まで運送して設置をするお手伝いをさせていただきました。

私は日本事務所での調整をメインに行っていたため、実際の被災の現場を見たのは、6月に入ってからでしたが、現場では自分の無力さを感じながらも、日本人であることの誇りを感じました。WFPの職員として、現在のシリアでの活動も含めてアフリカ、中東、アジアで様々な緊急支援に携わってきましたが、自国での活動に携われたことは特別でした。特にロジスティクス担当として、緊急援助の要を担えることは本当に大きなやりがいがありました。

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Photo: WFP/ Rie Ishii

完璧ではなかったですが、でも他の国と比べてもやはり日本は災害時の対応準備があると強く感じました。また現場の方々の辛抱強さや回復力を本当に感じました。これは支援の現場ではよく感じることですが、本当にすべてを失い何もない大変な状況での当事者の方々が先に立ち、支援者も含めて動いて下さって、本当に頭が下がる思いでした。

また内部のことではありますが、想定外のことへの対応も含め、本部や地域事務所も含めて関わった人たち全員が自分の出来ることをやろう、という気概があり、とても良いチームで仕事ができたと感じました。短い間の活動でしたが、多くの感謝をいただきました。WFPとして活動させていただく機会を与えられて感謝しています。

私は現在シリア事務所でロジスティクス・オフィサーとして活動しておりますが、今後も引き続き本当に必要なところに必要なものを届けていきたいと思います。去年はノーベル賞をいただき、今までの活動が認められたとともに、本当に平和を作り出していくための食料支援を考えて、本当に身が引き締まる思いでした。WFPを支えて下さった皆様のご支援を感謝いたします。

※Push型支援:国が被災府県からの具体的な要請を待たないで、避難所避難者への支援を中心に必要不可欠と見込まれる物資を調達し、被災地に物資を緊急輸送することをプッシュ型支援と呼んでいます。

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石井理江 1976年生まれ。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス大学院で開発学などを学ぶ。2008年にJPOとしてWFPに入り、タンザニア、チャド、パキスタン、ローマ本部などで活動。2011年の東日本大震災での支援、ギニアでのエボラ出血熱での緊急援助などで物流専門官として勤務。2018年よりシリアにて活動。