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「WFP Innovation Accelerator in Tokyo」イベント開催報告

ロバート・オップのプレゼンテーション全編
, WFP日本_レポート

10 April 2019

国連世界食糧計画(以下国連WFP)は4月10日(水)、国連WFPのイノベーション部門の責任者ロバート・オップを迎え、日本企業やスタートアップを対象にしたビジネスセミナー「WFP Innovation Accelerator in Tokyo」を開催。企業、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、政府、他国際機関等47団体から約80人が参加しました。

協賛:デロイト トーマツ ベンチャーサポート、UTEC

国連WFPの「Innovation Accelerator(イノベーション・アクセレレーター)」は、2016年にドイツ・ミュンヘンにインキュベーションオフィスとして設立されました。2030年までにSDG2「飢餓をゼロに」の達成を目指し、人道・開発支援の現場に革新的な課題解決を提案する数々のプロジェクトを生み出しています。

【国連WFP日本事務所代表:焼家直絵】
「国連WFPは世界約80カ国で、飢餓に苦しむ約9000万人に対し食料支援を行っている国連機関です。国連WFPは人道支援の最前線で食料を提供し、人々の命を救っています。また、栄養が足りていない妊産婦や幼い子どもに対する栄養支援や、長期的な視野に立った自立支援も行っています。

国連WFPにはあまり知られていない別の顔もあります。例えば支援現場では不可欠である情報通信を、国連WFPのためだけでなく他の国連組織やNGOなどのためにいち早く整備したり、ドローンを使って被災状況の調査をしたり、受益者の認証をするために生体認証を使用するなど様々なテクノロジーやイノベーションを活用し支援活動を効率的に行っています」

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Robert Opp, Director, Innovation and Change Management, WFP/ 国連WFPイノベーション部門の責任者

【国連WFPイノベーション部門責任者:ロバート・オップ 】

「世界では今なお、8億2100万人が飢餓に苦しんでいます。国際社会は2030年までの目標としてSDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、SDG2『飢餓をゼロに』することを目指しています。しかし、現在、世界の飢餓人口は年々増加しています。

2030年までにSDG2『飢餓をゼロに』する。この課題に立ち向かうために、私たちはイノベーティブなアプローチを必要としています。AI、ロボット、ブロックチェーン、モバイルテクノロジーといった技術革新が世界を変えています。それはさらに、新たなビジネスモデルを生み出しています。クラウドソーシングやシェアリングエコノミーがその例です。こういった新たなテクノロジーやビジネスモデルを、国連WFPの人道・開発支援の現場にも活用していくことが求められています」

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国連WFP「イノベーション・アクセレレーター」が提供する5つのプログラム

「国連WFPのイノベーション・アクセレレーターは、参加するビジネスにとってはプロジェクトのための支援を集め、計画を立て、革新的なテクノロジーやアイディアを形にしていくための場になります。一方で、私たち国連WFPにとっては、そういった新たな『価値』を組織や活動に取り込んでいく場になります」

「イノベーション・アクセレレーター」から生まれたプロジェクト例

Building Blocks-ブロックチェーン技術をヨルダンのシリア難民キャンプでの食料支援に活用。銀行を介さずに食料の購入のための現金を受益者に支給することで、アカウンタビリティーを高め、効率的な決済を実現。

EMPACT-学校に通うことができなかったシリア難民に対してデジタルスキルを身に着けるための職業トレーニングを実施。トレーニング履修後には、どこにいようとオンラインで世界中の職業機会にアクセスし、仕事をすることができる。

H2GROW砂漠地帯において水耕栽培で家畜のための草を育てるプロジェクト。アルジェリアでは7日間で草を育て、ヤギに食べさせることで、ミルクの生産量を増加させることができた。2019年末までに19カ国でこのプロジェクトを展開する予定。

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【国連WFPタンザニア事務所イノベーション責任者:クリストフ・ハウル】

国連WFPタンザニア事務所には「タンザニア・イノベーション・ハブ」があり、イノベーション・アクセレレーターで生まれた実験的プロジェクトを実践的に試し、さらに発展させることに取組んでいます。

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「『タンザニア・イノベーション・ハブ』では2つの機会があります。1つは、企業やスタートアップが革新的なプロジェクトを試験し、インパクトを計る機会。2つ目は、日本などからの専門的な技術によってプロジェクトのキャパシティービルディングのためのパートナーシップを組む、という機会です」

クリストフ・ハウルのプレゼンテーション全編

【パネルディスカッション】※敬略称

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モデレーター: ロビン・ルイス(Social Innovation Japan 共同代表)

パネリスト:(左から)

田中はる奈(楽天CEO戦略イノベーション室)、秋田智司(Wassha Inc. 代表取締役CEO)、大野祐生(デロイトトーマツベンチャーサポート 海外展開支援チームリーダー)

Q.あなたにとってイノベーションとは?

「日本企業と世界の橋渡しをすることに情熱を捧げてきました。イノベーションとは、それを可能にするものだと考えています」(デロイト・大野)

「 イノベーションとは、新たな方法で生活の質をあげることに役立つもの。先進国の一部の人々だけのものではなく、人類のライフスタイルを次のステップに進ませることができるものです」(WASSHA・秋田)

「イノベーションとは、エキサイティングで、シンプルにみんなの『Wow!』を生むものです。パッションを与えるものです」(楽天・田中)

「人類のチャレンジ、課題を解決する、新しくてクリエイティブな手段をみつけるものです」(国連WFP・オップ)

Q.イノベーティブなアイディアを現場に落とし込んでいく上で直面するチャレンジはありますか?

「組織中の同僚に対して『これはやるべきことである』と説得していくことが一番困難なことです。現場で活動している同僚に納得してもらうということは、実験的なものです。一度現場で試してみて、うまくいくということを証明できれば、その後は加速的に実践していくことができます」(国連WFP・オップ)

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「組織の中でイノベーションを促進させていく上で、私もまさに同じ課題にしばしば直面します。社員たちは日々の業務に追われ、イノベーションを促進していこうという余裕は通常無いものです。しかし、楽天の『ソーシャルイノベーション』という社会貢献要素の強いアクセレレータープログラムを通して気づいたのですが、例え業務外であっても、社会課題の解決に本当に取り組みたい、という情熱を秘めた士気の高い社員をみつけられると、物事が加速度的に進みます。彼らのパッションによって、日々の業務に埋もれることなく、プロジェクトを進めることができるのです。

社内にこういった"キーパーソン"を見つけて、イノベーションを加速させ、プロジェクトを推進していくことが、組織のマインドセットを変えていくきっかけになると思います」(楽天・田中)

Q.日本企業やスタートアップが途上国といわれるアフリカなどでビジネスをしていくことへの利点やチャレンジは何ですか?

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「 チャレンジはたくさんあります。最大のチャレンジをあえてあげるとすれば、各国の現地メンバーのマネジメントでしょうか。教育を受ける機会が小学校で途絶えてしまったという人がたくさんいる。教育レベルやバックグラウンドなどが様々なスタッフを雇用し、モチベーションを高め、トレーニングをしていく。地元スタッフには私たちの事業を地元で広めていくための"伝道師"になってもらう必要があるのです。

一方でアフリカでビジネスをするチャンスも非常に大きい。市場規模の大きさは魅力です。社会課題に目が行きがちですが、考え方を変えれば、それを解決するソリューションさえ提供できれば大きなビジネスチャンスになる。アフリカで事業をしていくことは、次の時代の成長への原動力にもなると考えています」(WASSHA・ 秋田)

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「多くの日本企業にとって、アフリカはまだ遠い存在です。そして現地で最適なパートナーを見つけることがいつも困難です。異なるビジネスプラクティスの中で事業を展開していく必要があるからです。現地で成功している事業はいずれも、ローカルニーズに的確に応えています。現行のビジネスでは解決できないことに対して、イノベーションを適用し課題を解決していけるかどうかが成功の鍵です」(デロイト・大野)

「日本企業に限らず世界の多くの企業にとって、現地の事業環境を理解し、事業展開していくことが非常に難しいです。そこで、私たち国連WFPなど、すでにフィールドで活動をしている国連機関が手助けすることができます。私たちは"SDGsの達成"という、同じ目標にむかって事業を進めていくのですから。互いに手を携え、事業を進めていく必要があります。私たち国連機関は民間企業の技術、スタートアップのイノベーションを必要しています。一方で私たちからは、ネットワークや事業を展開するための環境を提供することができます」(国連WFP・オップ)

Q.最後に来場者へのメッセージを。

「途上国でのビジネス展開を考えている皆さまにお伝えしたいのは、まず、現地の真のニーズを捉え、最適なパートナーをみつけた上で、ビジネスを推進していくために国際機関などのサポートを活用することが大切だと考えます」(デロイト・大野)

「 日本人は、Have. Do. Be.という順序で物事を考えがち。何を始めるにも、まずは十分な知識やリソースを持っていなければならない。それからやっと実践。その後"何者か"になる、という順。しかし、これは本来は逆だと思います。まず自分が『なりたい"何者か"になる』、なってしまったらスキルが無くても『実行』しなければならない。だから、続けていって気が付けば『知識』や『スキル』が身についている、という順で進んでいくものです。ですから、皆さんに声を大にして言いたい。『Just Do It! Just Go There!』と。これが僕のメッセージです」(WASSHA・秋田)

「私からはRakuten Social Acceleratorのご紹介します。ぜひご興味のある方はご応募ください。オープンイノベーションは可能です。楽天のリソースを大いに活用してください」(楽天・田中)※2019年の応募は終了しました

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「日本は過去数十年に渡って世界を変えてきた国です。多様なクリエイティビティ―や、知識、専門技術がこの国から生まれました。ぜひ日本の皆さんには尽力し続けていただきたい。世界で最も脆弱な立場に追いやられている人々のために、人生を変え、現状を打破するような知識やイノベーションが生まれることを期待します」(国連WFP・オップ)

パネルディスカッション全編

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参加者は会場内でVRやARで支援の現場を体験。